レポート

Face to Faceで繋ぐ夢の胎動。
ライブハウスとバンドマン、その心を愛する人々の約束の場所

 
2016年7月31日。新木場STUDIO COASTにて〔MURO FESTIVAL 2016〕が開催された。
イベントタイトルの“MURO”とは、主催者である“渋谷TSUTAYA O-Crest店長室清登氏”の事である。この時期、全国で開催される数多のロックフェス。その中でも珍しい、個人名を冠にしたこのフェス。今年で開催は5度目。文字通り室氏を輪の中心とし、氏がその信念を賭け日々尽力している“渋谷TSUTAYA O-Crest”で室氏と出会い、育ったバンドが全国から集結するこの日。インディーロック好きには「これが無ければ夏が始まらない。」といった夏の始まりの恒例行事であり、日々音楽を紡ぐバンドマンにとっては、自分の現在地を確認し、未来を見つめる大きなターニングポイントとなる暑い熱い夏の1日である。
 
オープン前、楽屋内で勝負は既に始まっている。以前から渋谷TSUTAYA O-Crestでの競演で顔見知りの出演者達。大舞台での再会を喜びつつも、誰が面白いか。今日はどんな爪痕を残してやろう。等、和気藹々の水面下で煮えたぎるバンドマン精神。渋谷TSUTAYA O-Crest、バンドマンと室氏の関係を良く知り集まるオーディエンス。主催者室氏と、それを支えるスタッフ全員の思い。それが交差して1点に集約される1日。それがこの〔MURO FESTIVAL 2016〕である。
 
「ヤバイっすね。」ライブスタート直前のセンターステージ。既に満員近くとなった会場を見渡して室氏が開口一番発した言葉。この舞台に立ち、主催者としての挨拶。ここで伝えられたのは、オリンピックの影響で例年会場としていた晴海埠頭が使用できず、開催が危ぶまれた事。開催地決定に時間がかかった為、出演オファーが遅れてしまったが、バンド達が快諾してくれた事、そして勿論、来場者への感謝だった。不安な中の開催であったが、スタート前の期待と熱気に溢れるフロアを見た感動で、思わず出た言葉が「ヤバイっすね。」だったんではないだろうか。室氏の注意事項に「はい!」と元気な声で答えるオーディエンス。触れ合える距離感が垣間見える。
一頻り挨拶の後、普段はか細い声(よく出演者のネタにされる)室氏の気合一発「行くぞー!」渾身シャウトで、駆け抜ける夏の火蓋が切って落とされた。
 

 
会場内は2つのステージ。常設のステージは“センターステージ”、この日の為に、フロア左手には“レフトステージ”が設置され、交互にライブが行われる。
 
第一音目はレフトステージから。第一走者は、〔MAGIC OF LIFE〕地元栃木で自身主催の〔Don't Stop Music Fes. TOCHIGI 2016 〕を成功させ、10月からは全国でワンマンツアーを慣行する、渋谷TSUTAYA O-Crest出身バンドの代表格である。ライブ開始と同時に無数に挙がる拳。信頼の第一走者がこの日の空気を作る。
 

 
繋げるのは、センターステージ〔a flood of  circle〕ブルースの洒落たSEから登場のロックンローラー。ライブ中盤Vo,Gt佐々木は既にオーディエンスの上をクラウドウォーク「今日がベストだろ!ベストにして帰ろうぜ!」と会場を鼓舞。
 

 
その勢いのままレフトステージ〔バックドロップシンデレラ〕へ。「踊らないヤツより、踊るヤツがえらいのだー!」と爆心地を多発させる“バクシン”。踊るヤツだらけのフロアで、出来上がる4つのサークルモッシュ。
 

 
既に会場のギアも挙がりっぱなしでセンターステージの“狂想演奏家”〔LACCO TOWER 〕へ。メタル、ハードコア、パンク、歌謡曲を飲み込んだ音楽性と放出される情熱。新木場の舞台をエレガントに且つ野生的に染め上げていく。激しくも優しさを内包し演奏された『未来前夜』“どうしようもない想い詰め込み 見つめていた未来の前夜”と歌われるこの曲で、聞く者の内側も熱くさせていく。
 

 
2階席、ラウンジの方まで超満員になった会場。続くは、〔Rhythmic Toy World 〕Vo,Gt内田の第一声はBUMP OF CHIKENの“天体観測”の一節。既にオーディエンスの心をきゅんとさせ、フロアを掌握する。1曲目の『波紋シンドローム』からいきなりフロアとのシンガロング発動。十分に温まる会場の視線は、レフトステージからセンターステージへ。
 

 
続くは、“千葉県佐倉市発叙情的音楽”〔Halo at 四畳半〕。Vo,Gt渡井は穏やかな口調で告げる。「ずっとくすぶっていた僕らを救ってくれたのが室さんです。」“残された命を君と歌っている”最後に演奏された『リバースデイ』優しくも確かに、彼らは感謝と今日に賭ける思いをその音楽で形にする。
 

 
レフトステージ〔tricot 〕はムロフェス初陣。キュートな姿とはギャップ最大級の自在な変拍子と爆裂のライブ。「今年はやっと出れましたー!」と喜びを叫ぶVo,Gt中嶋イッキュウ。室さんへの“感謝の舞”として、メンバー創作のダンスも決めてチャーミングな一面も見せつつ、ラストは『99.974℃』とフロアを沸騰へ持ち込む。
 

 
〔シナリオアート〕も初出場。宇宙、怪獣、LOVE等、ドリーミーなワードを使いながらも、繊細な心模様を表現。先日発売された『エポックパレード』も披露され、Dr.Voハットリクミコ も「まだまだこれからやでー!」とオーディエンスを引っ張っていく。
 

 
続くはレフトステージの〔THE MUSMUS 〕前身バンド“UPLIFT SPICE”から 室氏と繋がりの深い彼等もこの日への思いは特別だ。ラウドシーンでも活動するバンドの豪腕ライブ。気合いが溢れ出して体の底から雄叫びを上げるVo.CHIO。前身バンドから演奏される『オメガリズム』で挙がる歓声と拳。前身バンドから彼等に着いて来たファン達とバンドの絆がシッカリと見える。
 

 
続くセンターのステージ。岐阜県出身、緻密さと豪快さ、うねるバンドの中央でVo,Gt飯田の豊かな美声が踊る〔cinema staff 〕2013年以来の出演。「この前出た時には、出番で豪雨になってしまったので、出禁になったのかと思った。」と“ムロフェスあるある、豪雨での中断”で会場の笑いを誘いつつ、屋内豪雨心配無用で、その強靭な演奏を披露し、次のバンドへこの日のバトンを託す。
 

 
〔cinema staff 〕のライブ終了と同時にレフトステージから轟く轟音。“場末ポップ3ピースバンド”〔バズマザーズ〕バンドのギアは0秒目から全開でロックンロールを放射。ラストの『怒鳴りたい日本語』まで突き上げ続けたロックンロール。Vo,Gt山田亮一の怒鳴る日本語、龍の咆哮のように唸りをあげるテレキャスターシンラインの音が、新木場STUDIO COASTを乱舞。ロックがオーディエンスの腹の底に突き刺さる。
 

 
日中真っ只中から始まったこのフェスも、外は夕暮れ。センターステージに登場したのは、“クレストっ子”にはお馴染みのこのバンド〔GOOD ON THE REEL 〕Vo千野隆尋の会場隅々まで浸透する声、バンドの包み込むような音、自然と起こるクラップ、どの瞬間も慈しむように、互いにこの日の愛おしさを確かめるように紡がれるシーン。ラストは『素晴らしき今日の始まり』美しいこの日のラストへ向けて、新たなシーンが始まる。
 

 
レフトステージの〔ラックライフ〕SEから1番手登場はDr LOVE大石「よろしくお願いします!」と気合の挨拶。フロアに溢れかえったオーディエンスが拍手で応える。天真爛漫で大人と少年の間の魅力を持つVo,Gt PONは、「このフェスに出れなくて悔しかった。」と以前の思いを語り、今回出れた事の喜びを歌で爆発させる。
 

 
叫ぶ「いけるかムロフェスー!」と更にフロアを熱くさせ、センターステージ〔SUPER BEAVER〕へ。Vo 渋谷龍太は熱く語る。メンタリティの大切さ。人と向き合う事の大切さ。そして、それをこのフェスの主催者室氏から心を教わった事。今年で10周年を迎える彼等と、近くでその成長を見ていた室氏の関係。その歳月が、今尚成長し続けるこのバンドに力を与えている。“愛し続けるしかないじゃないか”と響いた言葉と美しいメロディー。会場中、2階席からも挙がる拳とシンガロング。加速していく今日という日。
 

 
続くレフトステージは〔My Hair is Bad 〕Vo,Gt 椎木知仁の言葉は“今”の自分を曇り無く表現し、聞く者全ての鼓膜0距離で絶叫する。「みんな良い子じゃつまんないでしょ!」「下から突き上げろ!」と予定調和を完璧に拒否。「事件起こしに来ました。」と自らの存在意義を突き立てる。その思いを受信して、フロアから挙がる支持の拳。新木場に確かな爪痕を残しステージを去っていった。
 

 
夜も更けてきた午後20時頃。〔グッドモーニングアメリカ〕が中央の舞台に上がる。おなじみBa たなしんは、体を張って登場。ピカチュウならぬ“たなちゅう”のコスプレでオーディエンスの上をクラウドサーフでステージへ到達。超満員のオーディエンスは、1曲目の『未来へのスパイラル』からシンガロングで応える。「自分達がただいま。というより先に、お帰り。といってくれる場所」と 渋谷TSUTAYA O-Crestを自分の言葉で表現し、会場中を巻き込んだライブでその愛を示す。
 

 
そして、レフトステージの〔ircle〕へ。Vo,Gt 河内健悟は言った。「大変なとこに置かれてしまった。」大トリ前に出演の ircle。終演後に室氏が口にしたのは「出順にも凄く意味があるんです。」その言葉の意味を最も理解し、室氏がバンドに提示した挑戦に応えた、この ircleというバンド。懸命にオーディエンスのど真ん中に投げ込み続ける音楽。切実に歌われた新曲『ヒカリの向こうへ』「ヒカリの向こうへ あの夢をつないで」そう歌われた言葉の中には、今までの日々から繋がる未来への切望が描かれている。ある者は満面の笑みで、ある者は涙を流し、このバンドから放たれた想いを真正面で受け止めていた。
 

 
そして、遂に大トリ〔アルカラ〕にこの日のバトンが託される。フィナーレのセンターステージ“ロック界の奇行師”〔アルカラ〕が放った1曲目は『ミ・ラ・イ・ノ・オ・ト』未来へ突き進む意志、確かな絆を歌うこの曲。その意味を知るオーディエンスからは大きな歓声が上がる。フロアもラストへ向けてテンションは最高潮。Vo,Gt 稲村太佑がフロアに投げかける言葉とアクションに、会場中で咲く笑顔、大歓声、あるいはその拳を掲げ応える。MCでは、「このフェスには毎回出て、毎回トリやってるから、短い言葉で済まさせて下さい。ムロフェスがー!好きー!」“激しく同意”と歓声と笑顔で答える超満員のフロア。『キャッチーを科学する』『半径30cm中を知らない』と矢継ぎ早にアンセムを投下。観る者全ての喜怒哀楽を引き出し、この日の大トリを貫禄を漂わせ締めくくった。
 

 
夜も更けた祭りの余韻漂う新木場STUDIO COAST。家路へ向かう人々。思い出をカメラに納める者、この日の思い出を語り合う者、それぞれが口元に笑みを湛え、今日の一瞬一瞬の名残を味わう。
 
閉会の室氏の言葉。「これからどういう形になるか分からないけど、続けて行きます。」その言葉に、素晴らしい時間に、愛おしさを携えた温かい拍手が挙がる。この日出演したバンド達からは、「場所が変わっても、人が変わらなければ、ムロフェスはムロフェス。」そういった意味合いの言葉が多く聞かれた。そして、こう続く「室さんから教わったのは“心”です。」と。全国にフェスは数多あれど、その中でも、”心”で繋がったこのフェスは、特別なライブとして多くの人々の心に残るだろう。そして、また全国に散らばっていく心を持ったライブバンド達が、またそれぞれの場所で心の種を撒いて、日本中に鮮やかな音楽の花を咲かせていくだろう。
こうして、夏の入り口、約束の日が今年も幕を閉じた。バンドマンとライブハウス、その心と信念のロックを愛する人々の夢は続いていく。
 
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【センターステージ】
1. a flood of circle
2. LACCO TOWER
3. Halo at 四畳半
4. シナリオアート
5. cinema staff
6. GOOD ON THE REEL
7. SUPER BEAVER
8. グッドモーニングアメリカ
9. アルカラ
 
【レフトステージ】
1. MAGIC OF LiFE
2. バックドロップシンデレラ
3. Rhythmic Toy World
4. tricot
5. THE MUSMUS
6. バズマザーズ
7. ラックライフ
8. My Hair is Bad
9. ircle
 
【ラウンジステージ】
1. ミソッカス
2. yonige
3. Age Factory
4. QWAI
5. NECOKICKS
6. Synchronized door
7. SHE'S
8. Large House Satisfaction
9. ジラフポット
10. AJISAI